就職活動の原則~僕らは「何」を企業に伝えなくてはいけないか~

就職活動の「原則」ということで「What to Say」(何を伝えるか)の視点から、僕が最大手広告会社や外資コンサルティングファーム、グローバルメーカーなど7社受けて6社内定を頂く中で得た知見をまとめてみました。

少なくともココを外さなければ、早い段階でわけもわからず落とされることはほとんどなくなるかな、と思います。決して就職活動の勝利(=内定獲得)は人生の勝利というわけにはいきませんが、ひとまず目先の不安を取り除くことで、自分が取るべき人生のスタンスについてより深く考える時間もとれる・・・ということもあるかもしれません(事実、僕自身は最終的にそれらの内定先への就職を選びませんでした)。

是非参考にしてください!

あなたが企業に伝えるべきたった一つのメッセージ

さて、いきなり「それっぽい」見出しで始めさせていただきましたが・・・結論から言います。

あなたが企業に伝えるべきたった一つのメッセージとは、「私には御社に"フィット"する"能力"がある」ということです。企業から見たあなたの貢献期待値は イコール「 能力 × フィット感」で表せます。これらは掛け算なので何も「能力」の絶対値が高い必要はありません。「フィットする能力」を示せるかどうかが試されています。まずはこれを覚えておきましょう。

次にこのメッセージをどのように伝えるべきか。大きく分けて、就活において聞かれることは2つしかありません。自己PR志望動機です。多くの場合、ESでも面接でもこれらが手を変え品を変え何度も聞かれています。

最初に述べた「 能力 × フィット感」を当てはめてみると、それぞれ・・・

  • 自己PR =「私には能力がある」

(私はこのような思考・行動特性に基づき、こんな能力を発揮し、こんな成果をあげることができますよー)

  • 志望動機 =「私は御社にフィットする」

(その能力は御社のこんな価値観のもとで発揮され、こんな業務に活かされますよー)

を伝えるものだと思ってください。

一つ目(自己PR)はなんとなく分かると思いますが、補足が必要なのは二つ目の「志望動機」だと思います。これ、自分視点で考えれば単なる「自分がその会社にいきたい理由」ですが、企業の視点から見てみるとまた違った側面が見えてきます。企業があなたを採用する理由は、あなたがその企業の利益拡大に貢献できるから。つまり正直「あなたがその会社にいきたい理由」自体はどうでもいいんです。

では、なぜ聞くのか。それはあなたの能力が発揮されるフィールドが自社にあるのかどうか面接担当者がイメージするためです。面接担当者は自社の事業内容や風土について思いを巡らせながら「この能力、うちで発揮されるかな」「どこの部署で発揮されるかな」ということを考えています。したがって、あなたが語る志望動機がその企業にフィットするものでないと、この関門を突破できません。

考えてみてください。「サークル代表として発揮したリーダーシップ」をアピールしたいあなたは、ゼミでも同じようにゼミ長をやっていましたか? あなたの能力が発揮されるフィールドは大抵の場合限定的です。能力とはある特定の条件下で発揮されるもの。それがフィットしているよ!ということを伝えるために「志望動機」があると考えてください。

以上を踏まえて。


でーん。

あなたと企業の「Matching」を構成要素に分解してみました。

まず、自己(=Me)の地平にはあなたの能力(Ability/Capability)が、企業(=You)の地平には企業の「Work/Culture」があります。あなたの持つ能力がその企業の価値観・業務の中にしっかりフィットするときに「Matching」が起こります。それでは一つ一つの要素について補足していきましょう。

■Me(自己)

  • Ability  :あなたが持つ具体的な経験・能力
  • Capability :その能力発揮の源泉・条件

■You(企業)

  • Work   :企業の具体的な業務内容
  • Culture  :企業の風土や価値観

「Ability」とは、決して「コミュニケーション力」「問題解決力」といったありがちな能力とは限りません。「組織全体を奮い立たせるコミュニケーションの力」と「個々人の不満を丁寧に一つ一つ和らげるコミュニケーションの力」は違いますし、「問題解決のために粘り強く思考する力」と「問題解決のために人を巻き込む力」もまた違います。

したがって、ここでは聞こえの良い言葉に惑わされず限定詞で括れるような自身のスタイルを選びとってください。また、更に重要なのが「Capability」。先ほどリーダーシップの例で話したように、その能力の発揮要因・条件、優位性の源泉のことです。あなたはなぜ「◯◯力」を発揮できるのか、どのような状況で発揮されるのか、或いはどのような思考特性をもって発揮するのかといった部分。「Ability」には具体性を求められる一方で、「Capability」はある程度の抽象度を保つことが重要です。

以上の要素についてそれぞれ思い当たる部分・考えうる部分を洗い出すのが、いわゆる自己分析と企業分析になるのではないでしょうか。そんなに難しいことではないので、自分の「好き・嫌い/得意・不得意」だけを大まかに把握したら、謎のワークシートはすぐに破り捨て、上記「Me」の2項目を埋めてましょう。

一方、より重要で差がついてしまうのが企業分析です。「この会社はこういうクライアント相手にこういうものを売っているから、こういう会社と競合することが多そうだ」「この事業の収益源を見るに、同じ営業と言えども継続顧客をつなぎとめるタイプよりも新規開拓ができるタイプが必要だろう」等のイメージをしっかり持ち、それに対して自分の経験・能力をフィットさせていかなくてはいけません。

ちなみに、これらは上場企業であれば企業HP内の「投資家向情報(IR情報)」から知ることができます。有価証券報告書等から、各事業部の売上構成、どの部門が増益・減益しているかを。また、中期経営計画等から重点化していきたい分野や今後の展望等を読み取ることができます。いや、「読み取る」なんてほど難しいものじゃありません。財務諸表を読める必要なんてなく、フツーに文章で「事業等の概要:◯◯が昨年比◯%減。原因は・・・にあると考えられる」って親切に書いてあります。こちらもIR情報に目を通すことができれば、謎の四季報や業界地図はすぐに破り捨ててしまって構いません。

プラスα

就職活動の全体観・考え方は以上の通りなのですが、ここで理解を深めるために一つのキーワードをあげさせて頂きます。

それは「再現可能性」。つまり、あなたの能力は自社の業務においても再現されるのか・・・。面接担当者にとってはそれが重要なんです。実は再現可能性には二つの段階があり、まず大前提として一つ目に「それホント?」というのがあります。「こいつ、問題解決力あるっていうけどホントかな」と。それを払拭するために私たちは「(より具体的な)エピソード」を用います。「こんなシーンでこんなことを考えて、◯◯したら、こういう結果になった!」的なやつ。「状況/思考⇒行動/結果」で1パッケージです。

また、面接担当者も頑張ってあなたの能力が発揮されるイメージを持とうとしてくれているかもしれませんが、どうせなら親切にこちらから自分の活躍シーンを「イメージ喚起」してあげましょう。サークルやバイトの話であれば、その組織の概要はもちろん、人数構成や男女比・年齢比、自身のポジションなどについて細かいことに触れながら語ってあげると良いでしょう。「居酒屋バイトなんですが、人数は全員合わせると40人くらいいるんです。下は高校生から・・上は45歳の方まで。そこで私はバイトリーダーをしておりまして・・・」みたいに。ちなみに、このテクニックはテレビで芸人さんがよく使います。「僕のおかんがね。よしこって言うんですけど、35で僕を産んだんでもう結構な年ですわ。で、おかんがねヨーグルト好きなんです。明治の、あのリンゴが入ってるやつでね・・・」的な語り口。こうして細かい情報を挟むとなんかイメージ沸きやすいですよね。

まとめーん


【演習】

あなたは、自己PRを通じて
A「私はこのような思考・行動特性に基づき、こんな能力を発揮し、こんな成果をあげることができます」
また、志望動機を通じて
B「その成果は御社のこんな価値観のもとで発揮され、こんな業務に活かされます」
ということを伝える必要があります。
1.指示語部分を自分なりに埋めてみよう。
2.Aについて具体的なエピソードで補強し、Bについて自分の活躍シーンを喚起させるに足る任意の企業の業務・風土を具体的に挙げてみよう



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論理的思考を獲得するためのセットリスト-決定版-

何をするにもとりあえず必要なのが論理。「人は論理じゃ動かねぇってカーネギー先生も言ってただろ!」と言われようとも、だからって身につけない言い訳にはならないのが論理。感情的な意思決定はときに合理的意思決定を凌駕するかもしれないが、その情動・情熱がいかに論理で説明のつかないものなのか、その距離感を分かっている者こそが感情を制する!

てことで、よくオススメ本とか聞かれるので以下にまとめておきます。

原論

ぼくたちは主張をするとき、それを裏付けるため、大きく分けて「言葉」か「数字」を用いる。論理的思考とは、それらをハンドリングする技術体系のことだ。

その中でも主たるものは、「因数分解」と「関数」に関連する技術。そう、数学。とはいえ、数学が苦手な人も安心して読み進めて欲しい。この先に「平方完成」や「解の公式」が出てくることはない。使うのは、数学の「考え方」だ。それを使って、入試問題ではなく、実社会で直面する問題を問いてみようというお話。

では早速。

例えば、会議で「この前のイベントでは人為的ミスが目立ったね」という反省点が出たとする。こういった時、たいていの場合は「一人一人が意識を高く持っていこう」などとという結論に終始しがちだが、これは思考停止の典型だ。

ここで

「意識というより単純に『疲労度合いの高低』が『ミスの量』を規定しているんじゃない?」(関数の視点)とか、「そうだね。あと疲労にも『精神的』なものと『肉体的』なものがあるよね」(因数分解の視点)

といった発想を生み出してくれるのが論理的思考である。こうすることで、「肉体的負担を軽減するために人員シフトを組み直そう」とか、「精神的な負担を軽減するためにチーム制で責任を分散しよう」とか、身のある打ち手が出てくるようになる。

どう?簡単でしょ。

「論理」を「発想」や「創造」といった概念の対極に位置づける人も多いが、そうではない。論理的に思考できるから発想が可能になるし、具体的なアイデアが生まれる。

習得プロセス

1.思考原理・方法論の習得
2.思考高速化テクニックの習得
3.血肉化(ケーススタディ)

習得のプロセスは大きくわけてこの三段階に分かれる。3は書籍を読むだけで習得できるモノでもないので、ひとまず本編では1,2について書くことにする。通り一遍のロジカルシンキング本紹介なら過去に腐るほどあるけども、それらとは少し違ったラインナップになっているはずだ。基本的には新書と文庫だけで下記「(必読)」と付記してある3冊を読み、日々その思考原理・方法論を意識してさえいれば問題なっしんぐ。

1.思考原理の習得(必読)

巷で流行のビジネス書は「ロジックツリー」や「MECE」をはじめ、魅力的なフレームワークを分かりやすく紹介してくれてはいるものの、思考の原理・原則を養ってくれるような良書にはなかなか出会えない。これらのフレームワークはどちらかというと「2.思考高速化テクニックの習得」の段階で覚えるもので、まずは骨太な思考原理を養わなくてはいけない。

そんなときに馬鹿にできないのが、ビジネス畑ではなくアカデミック畑の思考ガイド本だ。「大学の勉強なんて役に立たない」と思われがちだが、少なくとも(実証分野を中心とした社会科学も含む)科学的な考え方は論理的思考の原理・原則を習得する上で大変有用だ。

創造の方法学 (講談社現代新書)

創造の方法学 (講談社現代新書)

推計学のすすめ―決定と計画の科学 (ブルーバックス)

推計学のすすめ―決定と計画の科学 (ブルーバックス)

この二冊はいずれも新書で1000円を切る価格で買えるが、10000円払っても良いくらいのリターンがある。とにかくビジネス書・実用書を読む前にこれらを読んで欲しい。

「創造の方法学」で語られる「因果関係とは」「仮説とは」「問題とは」「理論とは」「概念とは」・・・といった定義は暗記しても良いくらい。もちろんそれらの定義説明は前半2,3割程度で、以降はがっつりと原因を追求するための科学的方法論が説かれている。

また、上記をロジカルシンキングと言うならば、「推計学のすすめ」はクリティカルシンキングに近い。統計学の基本知識・技能を身につけながら、それを使ってデータを疑う方法論が説かれている。こちらはケーススタディが豊富なのも嬉しい。ただ、ガチで数学ができない(「"Σ"ってなんて読むの?」みたいな)人にはちょっとむずかしい。

※追記

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ

2013年11月に発売された「原因を推論する」も素晴らしい。上で紹介した「創造の方法学」の現代版と言って良い。説明に「政治分析の方法を身につける」とある点、また表紙がどうにも硬派で近寄りがたい点などから敬遠する人も多いと思うが、待たれよ。確かに扱う事例は政治現象が多いが、どれも極めて身近なものである。また、中身に関してはむしろ「創造の方法学」よりも分かりやすい。筆致も極めて軽妙洒脱。超オススメ。

思考の高速化(必読)

ここは思考テクニックやフレームワークを覚えるフェーズ。前の段階で「原則」は学んでいるはずなので、残りは文庫本レベルの分量でコンパクトに抑えられるにこしたことはない。

何より安い。そして読みやすい。巷で人気の「考える技術・書く技術」「ロジカルシンキング」「ロジカルプレゼンテーション」辺りも良書であることに違いないが、原則はもう押さえているのだから安くて読みやすい方がベター。本書は安っぽい表紙・タイトルとは裏腹に中身はかなりしっかりしている。分厚い本で挫折したというあなたも是非一読を。

おまけ

必読書を読んだ上で、思考の原理・方法論に興味を持った人は副読本としてこの辺りを攻めてみても面白い。

考えることの科学―推論の認知心理学への招待 (中公新書)

考えることの科学―推論の認知心理学への招待 (中公新書)

「科学哲学の冒険」は特にオススメだ。「サイエンスの目的と方法を探る」という副題通り、科学の方法論が進化していく歴史を概観しながら、正しい方法論をめぐる歴史上の論争が鮮やかに語り起こされている。世界では、各々が論理的に正しい主張をしていてもなお、これまで対立が絶えることはなかった。「何が正しいのか」なんて分からない。そんな中、どうもがいていくかのヒントが眠っている。

「考えることの科学」は推論の方法について、大きく「論理学」に依拠した方法と「確率・統計」に依拠した方法について、それらの科学的思考と直感的推論とのギャップについてうまくまとめられている。これまで学んできた論理的思考というのは、今言ったところの科学的思考だ。しかし、そこから導き出される結論が直感的に正しくないと思うことがきっとあるだろう。この本は、そんな時に人の直感を歪めているものの正体を探るための大きなヒントになる。

ここまで読むと、また改めて最初に読んだ「創造の方法学」と「推計学のすすめ」の有り難みも一段と増してくるはずだ。

さぁ、骨太に思考していこう。

新しい国創りをはじめよう

現在の日本が置かれている状況を簡単に整理しつつ、「僕ら若い世代はいかに振舞っていくのが合理的なのか」について考えてみたいと思う。

高度成長期と現在(いま)

「既存の成功ルールはもはや通用しない時代である!」とはよく言われることだが、果たしてどういう事なのだろう。過去と現在を比べ日本が置かれている状況の違いを整理してみよう。

>「客数 × 客単価」

あるビジネスの売り上げについて考えるときに使う上記の公式。この公式で日本経済を理解するならば、前者はものを買う人の人数なので「人口」、後者は一人あたりいくら使うかということなので「景気」をあてはめてみると理解しやすい。その昔、日本という国は人口の増加・経済の成長と共にあった。両方の変数が増加トレンドの中にあるということなので、ビジネスで考えるならばマーケット拡大期。人口が減少に転じてからの日本はもちろんマーケット縮小期にある。

ビジネスにおいては、当然のことながらマーケットの拡大期と縮小期で取るべき戦略は変わってくる。では、具体的にこれまでの(拡大期にあった)日本を支えてきた戦略とはいかなるものであったのか。また、その代表例を見るとともにそれが(縮小期にある)現代にも通用するものなのかについても考えてみよう。

一業種多社構造

日本の産業構造を考える際に特徴的なのが、この一業種多社構造。自動車や家電などのエレクトロニクス産業において特に顕著だ。マーケットが拡大傾向にあり、ある程度みんなが欲しがるものが共通していた時代においては、この超競争的な環境が日本にとって有利に働き、特にリバースエンジニアリング(他社製品を解体してその仕組を理解し、真似る)等の手法によってありえないほどのスピード感を持って成長することができた。どれだけ競争的な環境にあっても成長市場がそれをまかない、モノはつくればつくるほど売れた。また、エレクトロニクス産業自体のライフサイクルが成長期だったことも相俟り、日本はこの分野で世界中から尊敬されるような商品を多数作り上げ、世界中にそれを売った。

しかし現在はどうだろう。マーケットは縮小傾向に転じ、産業自体も成熟。先進国においては利便性が幸せに直結するような時代でなくなってしまったことも大きく、便利なモノをつくればつくるほど売れる時代ではなくなってしまった。そんな時代においてこの超競争的な産業構造はどう働くのか。売れない時代に競争をすると、当然各社は価格競争をせざるを得なくなり消耗戦を余儀なくされる。このような局面では一業種多社構造はマイナスに働くのだ。そこで、このような競争から脱し、カタログスペック以外の体験価値・ブランド価値で勝負し成功した代表例がApple社である。

国内市場優先

利益とは「売上 - 費用」で表すことができる。 上記が日本企業の「売上」の優位性を奪っていった話だとしたら、こちらは「費用」の優位性を奪うお話。グローバル化以前、日本が海外諸国に対してコスト優位を築く方法は、日本市場でドカーンと売ってコストの低下を図り、そこから世界に売り出すというものだった。モノはより多くつくり、より多く売るほど一つあたりの製造・販売コストが下がるが、日本市場自体が大きくグローバル化が進んでいなかった時代は、日本でスケールした時点で世界に対してコスト優位性を持つことができた。しかし現在はどこの企業もはじめから世界で売ることを念頭に置くようになった。国内市場が大きいということ自体の強みは、もはや薄い。

また、既に常識となっているような話なので割愛するけども、世界中で作って世界中で売ることが可能になった時代においては、より生産コストの低い国でものづくりを行う企業の方が強い。日本は世界的に見ても物価が高い国であるため、いかに技術力が高くてもハイスペックで高価なものを世界中に売るというのはななかなか難しい。グローバル化の時代においてコスト優位性を築きあげて成功した代表例はアジア圏を中心に枚挙に暇がない。

終身雇用と年功序列賃金

今度は企業統治のお話。モノをつくればつくるだけ売れた時代についてもう一度整理してみよう。国内市場は既に大きく、且つ成長軌道にあった。また、マーケットのニーズはだいたい似通っており、人々の利便性は幸せに直結していた。こういう状況においてはある程度やるべきことが明確であり、モノを早く多く正確につくることが成功の鍵だった。言い換えれば、「生産性」とは「モノをより速く多く正確につくる力」であった。そこで発揮されるのは決められたことを迅速にこなすスキルだ。このスキルは基本的に職務年数と高いレベルで相関する。10年働けば、5年働いた人よりも、多くの場合生産性が高いのだ。すなわち、うまいこと長く務めるインセンティブ設計をし、新卒一括採用によって若いうちから年月をかけて育てることが最も合理的だった。事実、その日本的経営は当時世界中から賞賛されていた。

現在はどうか。マーケットニーズの多様化に従属して、求められる能力(=「生産性」の定義)もより多様化・高度化・複雑化してきている。そんな時代においては職務年数と生産性が相関するはずもなく、終身雇用や年功序列賃金といった制度・慣行が持つ優位性も薄れてきている。

教育制度

求められる能力、生産性の定義が変わったならば教育のあり方も変わるべきだろう。孫正義は「産業革命によって教育は変わったが、情報革命後の教育は変わっていない」と主張した。その通り、教育によって身につけるべき能力は時代によって変わるべきものだ。例えば、その昔欧米列強に追いつき追い越すためには、最先端の知識をインプットすることが成功の鍵だったことだろう。だから日本の英語教育はインプットに比重が置かれているが、今の時代により重要なのはアウトプット力だという主張がある。また、ある程度明確な問いがあった時代にはそこに向かって解の質を高めることが成功の鍵だった。だから日本の受験勉強は定められた正解にたどり着くプロセスに比重が置かれているが、今の時代に重要なのは質の高い問いを立てることだ。集団行動における協調性や受験競争を勝ち抜くための勤勉さも、まさにかつて日本が置かれていた状況において必要とされたものに過ぎない。

このように「優秀さ」とは時代によって規定されるべきものだ。現在の教育システムの中で競争を勝ち抜いてきた人たちは、確かにかつてものすごく「優秀」だったのだろう。しかし、その優秀さは、現代でも活きるものなのかというと疑わしい。

世代で共有しているノリや空気感

最後にちょっと違う角度からの話。高度成長期を体験し、勝ち抜いてきたおじさんたちと話す時にそのパワフルさに驚いたことはないだろうか。君が話したのは、目の前に成長物語がある時代、酸いも甘いも嗅ぎ分けて成長を追求してきた人だ。より頑張って働けば出世するし収入も増える。その過程で企業も成長し、国も富んでいく...そんな成長物語。一方僕らの世代は共有できる成長物語を持たない。だから、どうにもあの謎のパワフルさを理解出来ないというのも無理はないだろう。

共有できる物語がない今、僕らはそれを各自で調達しなくてはけない時代を生きている。魅力的な物語なんてどこにあるのだろう? わからない、辛い、もがくしかない。それが日本が抱える閉塞感の一つの正体でもある。そうなると僕らは、企業や国の成長よりも、身近な人々との繋がりの強度や体験の濃密さを求めるようになる。社会学者・宮台真司はそんな話をして「意味から強度へ」というフレーズで時代が抱える空気感の変化を表現した。そう。僕らは昔流行ったマンガやアニメに出てくるような社会的使命を帯びて闘う正義のヒーローになることよりも、小さいながらも濃密なほのぼのまったり日常を生きることを望むのだ。この話は、現代において「けいおん!」や「らき☆すた」といった日常系物語が流行したことと無関係ではないかもしれない。

僕らが置かれている状況

経済学的側面から見ても社会学的側面から見ても、こんな変化はあげればキリがない。とにかく僕らが置かれている状況は今の大人たちがかつて経験してきたそれとは大きく違う。それでも成長・成功したい僕らにとって、良い大学に行くことや人気の大企業に就職することは本当に合理的だろうか。その先に幸せはあるのだろうか。今僕らが置かれている状況について直視し、旧来的な価値観をしっかり疑ってみる必要がありそうなのは間違いない。

僕は、少なくともこれまでの成功ルールの軌道を歩んでいく先には、僕ら自身の幸せはもとより日本の未来はないと思っている。僕らは僕らの道で、新しい国創りをはじめないといけない時がきているのだ。最後に一つだけ気を吐こう。

僕らは、戦後初めて自らの成功を時代に規定されない時代を生きている。自分の生き方を自分で決められる、最高の時代を。

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